日本の農地や食糧生産を誰が担うのか? | 阿部巧 | 今日どう?通信

農業問題は突き詰めれば最後にはこの問題にぶち当たります。「農業生産者」だけではなく、「これまで消費者だった人たち」との協働にその可能性はあるのでは?ということが最近の論調です。

そんな中、最近またよく耳にするのが「半農半X」という生き方です。これは「自分や家族が食べる分の食料は小さな自給農でまかない、残りの時間は「X」、つまり自分のやりたいこと(ミッション)に費やすという生き方」として塩見直紀さんという方が提唱したコンセプトです。これまで消費者だった人たちが「小さな農業」を自分の暮らしの中で実践するということに、日本の新しい農業の形としての光があたっているのです。
そんな流れもあってか「半農半Xこれまでこれから(創森社)」という著書の一部を執筆させていただく機会がありました。そこで私の身近にいる半農半Xな暮らしをしている人たちを何人か紹介させてもらいました。例えば、次のような仕事の組み合わせで暮らしを立てている人たちです。
「コーヒー屋×カメラ×稲作」「稲作×自給生活×冬仕事」「菓子工房×事務請負×畑×稲作×農家レストラン」
そんな彼らの話を書いていると、「半農半X」な人たちは農業の担い手であることには間違いないのですが、これまでの「大規模農地で安定経営」という担い手像とは合わないということがよくわかります。

彼らの農業は、大きな規模で大量生産すること、顔の見えないほどの社会のためにしなければいけないことではありません。農業でお金を稼ぐことも追求していません。「農村で暮らすために」「自分の食料自給率を上げたい」「共感してもらえるものづくりがしたい」などということが彼らの価値観にはあります。

「日本の農地や食糧生産を誰が担うのか?」という問いは、その出発点を見直す必要があります。「半農半X」を農業の担い手として見るのであれば、大規模生産を担う農家と、半農半Xな人々の根底にある価値観の違いの理解がなければ、おかしな方向に進んでいく可能性も大いにあるのではないでしょうか。

文・阿部 巧(NPO法人市民協働ネットワーク長岡 理事)


「今日どう?通信」はNPO法人市民協働ネットワーク長岡の事務局・理事その他関係者が、市民協働をテーマに日ごろ感じたこと、気づいたことをしたためるリレーエッセイ・コラムです。
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