人は何を望んでいるのか? 何をしたいのか?
新たな活動や事業に取り組もうという時には、そんなことは当然わかっていると思っていることでしょう。それがあってこその新たな活動や事業だからです。
でもそうしたニーズをさらに具体的に探っていくと、本人も自覚していなかった隠れた心理や思わぬ欲求(インサイト)が潜んでいることがあります。
「まちなかキャンパス長岡」の設立にかかわったことがあります。
最初に取り掛かったことは、これまで把握してきた市民ニーズをもとに、より具体的に「何を学びたいのか」「どんな仕組みを望んでいるのか」などを明らかにすることでした。
井戸端会議風に多くの人たちと話をしていくと、ときおり「おやっ?」と思うことに出くわすことがあります。その一つが「学生証」でした。
「ところで、大学だから学生証はあるよね?」「大学には行かなかったけど、この歳になって学生証を持つって何かいいよね」……学びたいことのついでといった感じで学生証の話をする人が意外と多いことに気がついたのです。
そうした中で、特に年配の人に感じられたのが、「歳をとっても学ぶ意欲はもっている自分でいたい」「そんな意欲をもった自分は何だか好き」という心理です。そんな密かな思いを満たす証が学生証なのではないか?
そうとわかったら、その学生証をさっと見せる場面も必要です。そこで浮上したのが、飲食店で「まちキャン」の学生証を見せると、生ビール1杯サービスとか1割引きといった特典です。スタッフが手分けして100店舗以上の飲食店をまわり、開学のあいさつをしながら「学生証」提示による特典の導入をお願いしていきました。
自己肯定感の象徴でもある「学生証」を差し出すと、特典まで付いてくる!「学生証」は思った以上に大切なアイテムだったのです。
かっこいい学生証をつくる!――これが市民の気持ちの洞察から浮かび上がった「まちキャン」の第一のテーマとなったのでした。
「まちキャン」は、主に市内の大学・高専の先生方から講師になってもらい、様々な分野のことをわかりやすく、楽しく学んでいこうというのが基本的な考え方でした。そうした仕組みは市民もとても歓迎してくれたのですが、ときおり歯切れの悪い部分も……。
いろいろ話を聴いていくと、「役所や大学の先生が考えることって、少し堅苦しそう」と感じている人も多いようなのです。
そうした観点から深堀していってたどり着いたのが、「自分たちが知りたいと思っていることを学びたい」「大学の先生だけでなくいろいろな人からも講師になってほしい」という市民のインサイトです。
学びたいことを受講者自身で決める仕組みをつくる――これも「まちキャン」で実現すべきテーマとなりました。
そうした市民の主体性は、「運営ボランティアの編成」という形でも生かされていくことになりました。「市民プロデュース講座」や「ボランティア企画講座」という仕組みが誕生することになり、ここでは、「おもしろクラシック♪奇跡の音楽家モーツァルト」「四国遍路はじめの一歩」「中高年のための日本一やさしいスマホ講座」といった人気講座が行われています。
市民目線でおもしろく学ぶという視点は、大学・高専等の先生方の講座にも影響を与え、「与板の“あやしい”街歩き」「今夜はシックにクラシック」「仏像を知るぞう-仏像鑑賞が楽しくなる入門講座」などといったタイトルも工夫された魅力的な講座が増えていくことになったのです。
「まちキャン」を例にとって考えてきましたが、違う知識・経験・価値観といった多様性と集合知を生かして協働で活動の対象となる人のニーズを洗い直し、奥に隠れた気持ちや思いも寄らぬ価値観がないかを探っていくことは、様々な市民活動にもとても大切なことに違いありません。
その結果、「そうそう、私が望んでいたことはこんなことだったの!」といった声が聞けたらどんなにかうれしいことでしょう。 わかっていると思っていることでも、もう一度頭を真っ白にしてゼロから見つめ直してみる――それぞれの活動によって新たな価値や喜びを実現していくカギは、こんなところにもありそうです。
文・NPO法人市民協働ネットワーク長岡 副代表理事 河村 正美
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「今日どう?通信」はNPO法人市民協働ネットワーク長岡の事務局・理事その他関係者が、市民協働をテーマに日ごろ感じたこと、気づいたことをしたためるリレーエッセイ・コラムです。
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